関西ではよく知られていますが、琵琶湖と京都市の間には水路があり、琵琶湖疏水(びわこそすい)と呼ばれています。飲料水の供給と灌漑、水運、発電を目的に、琵琶湖の湖水を京都市へ流すために明治時代に作られた人工の水路です。琵琶湖から取り入れられた水は、難工事となった長等山トンネル(第1トンネル)を通って京都山科で地上にあらわれ、再びいくつかのトンネルを抜けながら、蹴上(けあげ)を経て岡崎などから鴨川へ流れていきます。全長11.1km(第1疏水)となったこの事業は、明治中期における日本土木技術の確立を示すこととなりました。
疏水沿いには水と歴史にまつわる散策スポット、そして桜の名所がたくさんあります。今回は、自転車でゆっくり巡れる程よい距離の、琵琶湖疏水沿いルートをご紹介いたします。
大津 三井寺周辺
京阪電鉄三井寺駅のすぐ西側、大津港から第1トンネルまで流れる疏水運河沿いが今回の桜スポットの1ヶ所目。すぐ近くの、滋賀県有数の桜の名所として知られる天台寺門宗の総本山、三井寺とともに毎年ライトアップもされ、夜桜も楽しめます。

疏水の石積みとマッチしている、三井寺駅前の渋い鉄橋。三井寺駅のほか、JR大津駅からでも10分もかからないので、遠方から輪行でもアクセスしやすい。この写真では見えないが、列車の向こう側、右奥すぐに琵琶湖が見える。
三井寺駅から第1トンネルへ向かう途中には、大津閘門(おおつこうもん)」とよばれる構築物が見えます。疏水の竣工当時は大津と京都を連絡する運河の機能があったことから、湖水の増減にかかわらず安定して船を通行させるために、一定の水量を送るために設けられました。
第1トンネルまでの疏水の両岸には約200本の桜が植えられ、三井寺に続く絶景の桜並木として大津市の桜名所のひとつとなっています。今回は身長150cm台前半と小柄な体格の真帆さんにルートを巡っていただきました。

今回のバイクはTernの街乗りバイクLink C8。エントリーモデルながらも上位シリーズと同じハンドルポストを装備する。フォールディングバイクで多く採用される低床フレームはスカートでも乗りやすく、シートポストの上下可動幅が大きいのでレーシーな乗車ポジションを追求しなければ身長も問わない。
三角屋根を構えた第1トンネル東口の堂々とした佇まいを望むこのアングルは、琵琶湖疏水を代表するカット。ここから疏水は全長2,436mの第1トンネル(長等山トンネル)で山科まで、長等山を貫きます。
山科方面へは小関越(こぜきごえ)という細い道を抜けますが、距離にすると2km程度。歩いても30分もあれば山科側の市街地に抜けることができます。
山科疏水
京都で花見というと京都市中心部の名所に行きがちですが、JRで京都駅から一駅の山科エリアは地元では穴場スポットして知られています。休日に颯爽と自転車で走り抜けるのには向きませんが、中心部の混雑を避けて桜並木を鑑賞するには絶好のスポットです。

山科駅から疏水沿いの桜並木までは、住宅街を抜けて徒歩でも10分、自転車ならすぐの場所。今回は大津方面から小関越を経て、山科市街に入ってからは疏水沿いの遊歩道を抜けてきた(遊歩道は舗装路では無いのでタイヤによっては要注意)。東西に約4.3km続く疎水沿いには、ソメイヨシノやヤマザクラを中心に800本の桜が咲き乱れ、黄色の菜の花とピンクの桜が続く風景は見もの。
こちらは、琵琶湖側から数えて2つ目のトンネル(諸羽トンネル)の出口。ゆったりと静かに流れる桜の花びらが印象的でした。ここから始まる山科疏水沿いは市民の憩いの場にもなっていて、バイクを押し歩きながら春の情緒を感じられます。
今回は途中で弁当を調達し、菜の花と桜の景色を眺めながらのランチタイムを楽しみました。
疏水から住宅街の緩やかな坂道を500mほど北上すれば、枝張り30mの大しだれ桜で有名な毘沙門堂(びしゃもんどう)に立ち寄れます。

天台宗の寺院で、毘沙門天をご本尊に祀っているため毘沙門堂と呼ばれる。宸殿前には30mの枝張りは支え木に支えられる樹齢150年を超えるシダレザクラが、本堂の脇にはソメイヨシノ、一切経蔵の前にもシダレザクラなど50本の桜が咲く。桜だけを見るのであれば境内は無料、拝観は500円。
山科エリアには、疏水沿い以外にも桜のスポットが点在しています。次は蹴上方面に向かいます。
蹴上エリア・南禅寺
琵琶湖方面から来た舟が蹴上船溜りに到着し、乗り降りすることなくそのまま舟ごと台車に乗せ、南禅寺舟溜りへ移動させていたインクラインがあるのがこちらの蹴上エリア。約90本のソメイヨシノが咲く傾斜鉄道跡は京都の桜散策の定番コースです。写真は琵琶湖疏水第3トンネルの出口付近。ちょうど風が吹いて、桜吹雪を見ることができました。
疏水は蹴上で、発電所に向かう本流と南禅寺に向かう分流に分かれます。蹴上から南禅寺までの分流沿いは道が悪いためバイクでは通れませんが、夏に木漏れ日の中を散策するのもお勧めです(この日は工事で通行止めになっていて通り抜けられませんでした)。
南禅寺は紅葉の名所として知られていますが桜も美しく、約200本の桜が楽しめます。写真は疏水の分流が流れる水路閣です。

境内に水を通すためにつくられた高架水道橋「水路閣」。延長93.17m、幅4.06m。レンガを用いたアーチ構造のデザインは当時斬新で「景観を損なう」と批判する人も多かったとか。今では経年変化によって味わいが増し、京都を代表する人気の観光名所となった。紅葉の名所、撮影スポットとしても有名。
岡崎疏水
琵琶湖疏水のうち、琵琶湖疏水記念館西の南禅寺舟溜り乗船場から聖護院保育園南の夷川ダムまでの約1.5kmは岡崎疏水とも呼ばれています。疏水の分流は哲学の道沿いを流れていきますが、こちらは比叡山近くから流れ出た湧水(白川)と合流した本流の方です。ここ岡崎疏水の両岸にも桜の木が植えられ、船上から桜を眺め優雅なひと時を過ごせる十石舟も観光客に人気です。
祇園白川
岡崎疏水は平安神宮を取り囲むように流れながらそのまま鴨川へ至りますが、今回は平安神宮の大鳥居前でまた分岐する白川沿いを散策しました。こちらは2月上旬に公開した記事でも撮影した、大鳥居からすぐの定番スポットです。
平安神宮の大鳥居前から祇園を縫うように流れて鴨川に至る白川沿いでは、情緒豊かな町屋を眺めながら川の流れとともに進むことができます。
河原町の手前、祇園白川と呼ばれる辺りでは、石畳の道や舞妓さんの姿、春には桜が咲き乱れ、夜には料亭の灯りと、京都を代表する風景に出会います。
大津の三井寺ではちょうど満開だった桜も、京都市側では葉桜になりつつありました。
祇園白川には祇園東の芸妓、舞妓さんが通うお茶屋が立ち並び、古風で美しく情緒のある街並みが残っています。桜の本数は40本程と多くは無いものの、白川の流れ、料亭の灯りとともにライトアップで非常に美しい桜の風景を楽しめます。今回の旅もいよいよ終わりを迎えます。
重要伝統的建造物群保存地区に指定されている祇園新橋を最後のスポットとして、今回の旅を終えました。
今回巡ったルート
バイクで走る距離としては短めですが、今回は花見や撮影など、散策しながらにちょうどいい距離を意識してプランしました。スタート地点、ゴール地点とも駅に近いので、フォールディングバイクでの輪行に便利です。春の桜以外にも良い風景が広がっていますので、ぜひ一度訪れてみてください。