ポタリング…元々は、呼吸が乱れない程度の有酸素運動を自転車ですることを指していましたが、近年では、がっつり走るスポーツが目的のサイクリングに対して、気ままにのんびり散歩感覚で走ることが目的のサイクリングを「ポタリング」と呼ぶようになっています。タイヤ(ホイール)が小さなミニベロは小回りが利いて加速もしやすいので、路地を往き来したり、信号が多くてストップ&ゴーを繰り返す都市部でのサイクリングに向いています。スピードはタイヤの大きさではなくギア比で決まるのでミニベロだからと言ってスピードが出せない訳ではありませんが、可愛らしいルックスの多いミニベロは街なかでのポタリングにもぴったり。今回は、ポタリングをテーマにお届けします。
大阪の梅田は日本有数の繁華街ですが、そのすぐ隣の中崎、本庄、中津、福島や海老江、野田といったエリアには、戦火から逃れた貴重な長屋や古い建築物が未だに多く現存しています。梅田を起点にポタリングというと北浜・本町界隈の近代建築群や路面店巡り、中之島から淀川へ至る大川沿いの自転車道、大阪城やスカイビルなどの観光スポット、大阪市が運営する8箇所の渡船巡りなどがよく紹介されますが、今回はそんな梅田に隣接する古い街並みやスポットを巡ります。散策の途中で観光化されていない素敵なものと出会う、本来の散歩らしさをミニベロで楽しみたいと思います。
09:00 喫茶 アリア
今回は東梅田の純喫茶からスタート。大阪人であれば太融寺といえば伝わる、大人な繁華街にあります。阪急東通り界隈では1960年代あたりから喫茶店が増えはじめ、純喫茶や珈琲専門店のほか、名曲喫茶、ロック喫茶、ジャズ喫茶などの音楽系の喫茶店も流行しました。アリアはその名のとおり「G線上のアリア」から名づけられた、クラシックを高性能のオーディオ機器で聴かせる喫茶店として1968年に創業、来年2018年で50周年を迎える老舗です。
10:00 中崎〜本庄
中崎町周辺にはレトロな古い町並みの中に隠れ家的な店が多くあり、路地を散策するのがとても楽しい地域。こじんまりとアットホームなカフェや、雑貨屋、古着屋などが立ち並び、いつ行っても新しい発見があります。民家の間の抜け道のような細い路地を抜けると素敵なお店が!といった出会いがたくさんあり、探検している様なワクワク感があります。
中崎から道1本隔てた北隣に広がる本庄。中崎とは違ってデートスポットの様な雰囲気はないものの、路地に物干し竿がかかっていたりと昭和的な空気感を残すエリアです。ゆったりとした時間の流れの中で「トォ〜フ〜」というラッパの音が聞こえてきそうな、下町情緒に触れてみては如何でしょうか。

お好み焼きやたこ焼きを売る「お好み焼き伊佐」のお姉さんとの会話が弾んだ。地域に根ざした店でのコミュニケーションは、心が温まる。「砂糖てんぷら」とメニューに貼り出されていた沖縄の揚げ菓子サーターアンダギーを2個入り100円で購入。
11:00 樋口架道橋〜豊崎第6架道橋〜中津町架道橋
本庄公園に隣接するJRのガード下にはこんな古いトンネルが。明治10年の京都-大阪間開通時に設けられた樋口架道橋で、煉瓦造となっています。

日本初の公共鉄道として明治5年に開業した東海道本線 新橋-横浜間の橋梁は全て木構造でトンネルは1箇所もなく、基本的に煉瓦材料も用いられなかったとされているが、京都-大阪間では鉄製橋梁、トンネル、直轄による煉瓦の製造、平底レールの導入などが行われ、本格的な鉄道技術の出発点と言われている。
鉄分多めのスポットが続きますが、次に通りかかったのは御堂筋線中津駅からすぐのところにある桁下1.4m制限の架道橋2つ(豊崎第6架道橋、中津町架道橋)。長い間中津の風景の一つとして親しまれてきましたが、いずれも近々無くなってしまいます。

桁下の低さでは新大阪-塚本間の北方貨物線にある桁下1.2mの架道橋が有名だが、こちらの2箇所は駅前ということもあって結構な人通りがあり、豊崎第6架道橋にいたっては車もオートバイも走るので、なかなか見応えがある。

なにわ筋線の建設に伴う梅田貨物線の地下化(JR東海道線支線地下化事業)により、この桁下1.4mという高さ制限の架道橋2箇所は無くなる予定になっている。
12:00 タコ公園
タコを模した形状のコンクリート製(人造石研ぎ出し仕上げ)のすべり台「タコの山」がある公園は、タコ公園と呼ばれることが多いそうです。こんなにキュートなタコのすべり台ですが、減少傾向にあるそう。

こちらの正式名称は豊崎西公園。今では少なくなったタコの山は、一つの会社が1970年ごろから全国に「タコの山」を約400基も作ったそう。足立区か品川区(諸説ある)の行政から、複数の滑り台のある山がなんの形かわからないのでタコの頭を付けるように指導されてタコの山になったというから驚く。
12:30 中津商店街
梅田の高層ビル群がそびえるそのすぐ足元で、昭和の時代がそのままの姿で残る中津商店街。中津町の由来は、淀川の毛馬水門(毛馬閘門)で南へ分岐する旧淀川(大川、堂島川、安治川など)の支流であった中津川(現在の淀川)の左岸にあったことから名付けられた中津村が起源。中津商店街の成り立ちは不明だが、昭和の頃は近所のショッピングスポットとして活気があったことが、当時のままの看板から分かる。
13:30 King of Kings
昼はこの日2軒目となるレトロなカフェへ。大阪駅前第1ビルの地下1階で、マヅラと共に非常に有名なキングオブキングス。美しいモザイク柄のステンドグラスに、丸いイス、赤いソファー。1970年の大阪万博当時そのままのステンドグラスが特徴的な店内では、ゆったり落ち着きながらレトロフューチャーな世界観を味わうことができます。ゴージャスな雰囲気はまるでクラブかラウンジのようで、思わず長居しそうに心地がいいお店です。
15:00 海老江〜野田
梅田から福島駅前を通って海老江へ。この辺りは戦災を免れた地域で、海老江3丁目、4丁目辺りには戦前の町並みが広がっています。路地のような狭小な道に、入り母屋造り、切り妻、長屋形式といった伝統的な家屋が連なり、落ち着いた町並みを形成しています。
八坂神社側から国道2号線を渡って海老江7丁目へ。国道に面した場所で、石畳が残された地域がありました。普段は通り過ぎて気にも留めない場所でも、散歩よりも移動距離を稼げるポタリングなら、見慣れない隣町で色々な発見をすることができます。
玉川の駅前をかすめて野田へ移動。大阪中央卸売市場の北側のエリアです。道幅の広い通り沿いには、戦前の大阪の下町らしい長屋や町家が広範囲にわたって軒を連ねています。また狭い路地には、さらに古い伝統的様式の町家や土蔵がひっそりと残り、古い町並み散策が好きな方にはとても良い地域です。そこで、とても細い路地を発見しました。後で調べると「宝稲荷大明神」さんとのこと。表と裏と社殿の前に計3本の鳥居がありました。

海老江や野田は町並み散策系のブログなどで多数取り上げられているので、今回は絵になる風景は割愛している。それぞれの地域には結構な数の建築物があるので、たくさん見ようとするとポタリングにちょうどいい距離になる。
17:00 鷺洲〜福島
玉川の町並みを散策しながら鷺洲へ移動。地元スーパーから大手スーパーに続く通りが、ちょうど傾きかけた陽の光で綺麗に照らされていました。今日のポタリングもいよいよ終わりです。
福島は梅田から西へ1kmほどという地理的条件から、幹線道路沿いを中心にオフィスや高層マンションが立地しています。その一方で少し裏手も入ると、古くからの下町の住宅地が広がっていて、住みやすい地域です。こちらは福島天満宮の横の路地。蔦に覆われているのは、地元の床屋さん。角に掲げられた黒板では、健康や暮らし方についての為になるネタがこまめに書き換えられています。

この辺りの路地は幅が狭いにも関わらず、ロケ時も仕事帰りの多くの社会人が抜け道として利用していた。この先の福島駅前には大阪屈指の味の激戦区が広がり、他の地域からも飲み会やデートで訪れる人が多いため、平日も休日も駅前には人が溢れている。
すっかり暗くなったので、今日のポタリングはこちらで終了。写真は福島駅前の、隠れた名店がずらりと並ぶ通りの一つ。福島駅の周辺には古民家をリノベーションした飲食店が多く、1軒1軒はこじんまりとしていますが軒数が多いので、大阪市内でも有名なエリアとなっています。
中津の架道橋が近々無くなる件について上で触れましたが、50年近く前に創業されたレトロカフェ、純喫茶なども店主の高齢化、老朽化したビルの建て替えなど、様々な要因で存続が危ぶまれており貴重な存在と言えます。また、町は生きていて常に変化しつつづけていることから、ポタリングを通して改めてその変化に気づくことも多数あります。今日は何しようかな〜と思う休日には、ぜひミニベロでポタリングをしてみてください。生まれ育った地域なら、子供の頃に抱いた淡い恋心の記憶を思い出したり、新しく引っ越してきた地域なら、隠れた名店を発見するチャンスです。