「サイクリストの聖地」として国内で最も人気の高い、尾道 – 今治間のしまなみ海道には毎年多くのサイクリストが訪れています。多くの地方自治体では観光振興にサイクルツーリズムを掲げ、しまなみ海道に続く次のスポットとしてビワイチ(琵琶湖一周)、アワイチ(淡路島一周)、三浦半島、霞ヶ浦をはじめとする様々なスポットを企画、整備しはじめています。その中で、しまなみ海道同様に信号が少ないため走りやすく、海や島の景色が美しいこと、歴史や建物、食べ物など観光スポットが豊富なことから、しまなみ海道の西に位置する「とびしま海道」が今注目されはじめています。
今回は、今夏にグランドオープンしたボルボ・カー 堺からXC90をお借りして、7月に掲載した丹後半島への旅記事に引き続きシックスホイールの旅をお届けします。
*この記事で紹介している情報は、2017年10月時点の取材に基づいています。
瀬戸内の島々へ
テクノロジーが高度に発達しても、人は自然と対峙しなければならない。旅はちょうど秋の長雨、あいにくの天候から始まった。ただし今回は強力な相棒として、ボルボのプレミアム7シーターSUV「XC90」がシックスホイールの快適な旅をサポートしてくれる。サイクリング用にTernのフォールディングバイクVerge X11をラゲッジスペースに載せ、いつでもファーストクラスの空間にエスケープできる安心の環境で、瀬戸内の島々を巡る旅に出ることとした。
ボルボ・カー 堺のある大阪府堺市北区から今回の旅の拠点、ONOMICHI U2 までは阪神高速、中国道、山陽道を乗り継いで3時間半のクルマの旅。出発時から途中まで降っていた雨は尾道では上がっていたが、今夜から明日の午前中まではまとまった雨の降る予報だ。

全モデルに標準装備されている4つの世界初を含む16種類以上の先進安全技術により、道中は安心感に包まれた移動となった。中でも、車速140km/h以下で走行中に、自車を車線の中央に保持するよう自動的にステアリングを穏やかに修正してくれるパイロット・アシスト(車線維持支援システム)は、実際に何度か作動しサポートしてくれた。また、サイクリストとの衝突回避・被害軽減に働くドライバーへの警告や自動ブレーキなど、サイクリストとしても嬉しい機能も装備されている。
古寺がたくさんあり歴史情緒あふれる尾道の街を散策しながら、事前に調べておいた海鮮居酒屋「辰兵衛」に入った。尾道の飲み屋街、新開エリアには150もの飲食店があるとされるが、ここは地元の人間からも勧められた特筆すべき店だ。地魚や珍味など幅広い素材を用意しており、壁に貼られた不思議なメニューの名から料理を想像するのも楽しい。まずは刺身の盛り合わせをオーダーした。

あなごなど、地でとれる新鮮な素材を使った盛り合わせ。あなごをお刺身で、湯引きで、または皮まで、いろいろな調理法で提供できるのは、地元のお店だからこそ。要望に応じていろいろな調理法で出してくれる。この日の刺身盛にはその他シマアジなどが盛られていた。
こちらは天ぷらの盛り合わせ。小エビのかき揚げやあなご、ハモなど、こちらも地でとれる旬のものを贅沢に盛り合わせにしている。あなごもだが、特にハモの天ぷらはおかみさんオススメの一品。
いい気分で外に出ると、尾道水道に静かな雨が降り出していた。
初めて足を踏み入れる島
とびしま海道、正確には「安芸灘(あきなだ)とびしま海道」は、本州側の広島県呉市とその南東に位置する安芸灘諸島の島々を結ぶ、8つの橋梁の総称「安芸灘諸島連絡架橋」の愛称だ。西からは呉市から自走できるが、東からは今治港からの船でのアクセスがメジャーだ。今回は尾道を拠点としているので西瀬戸自動車道(しまなみ海道)をクルマで飛ばし、大三島の西端に位置する宗方港からフェリーで渡ることにした。夜半からの秋雨はまだ上がらない。肥島や大下島まで直線でほんの1.5kmほどだが、霞んで見える。

今回借りたグレード「T6 AWD(Inscription)」には235kW(320ps)/400Nm(40.8kgm)を発生させる高出力ガソリンエンジンが搭載され、効率を犠牲にせずにダイナミックな走りが実現されている。スーパーチャージャーとターボチャージャーを備えるパワフルな直噴ガソリンエンジンと応答性に優れるAWDシステムにより、思いのままに走らせることができる。
船の待合所では、地元で採れた極早生みかんが売られていたので買ってみた。値段はさすがの地元価格。とても美味しくて目が覚めた。
大三島ブルーラインの「フェリーみしま」は旅客定員250名、6トントラック8台を運ぶことができるが、雨の残る平日朝の便には観光客もおらず、客は我々ともう1台だけであった。船は着岸するや否やクルマを載せ、2、3分ほどで出港した。
ひとたび港を出せば、船は黙々と海路を進んだ。降水量が比較的少ないとされる瀬戸内だが、この静かな雨の景色もまた良い。
とびしま海道 東の起点に
20分ほどで最初の島、岡村島に着いた。雨がちょうど上がっていたのでXC90からVerge X11を下ろし、走ってみた。路地を少し入るだけで、落ち着いた集落の空気感に包まれた。泥除けを装着していないので水溜りは避けたが、Verge X11は油圧ディスクブレーキを装備しているので雨の日でも制動力が低下しにくく、島巡りにも安心できるモデルだ。
心なしか空が明るくなってきたようだ。10分ほどでクルマに戻り、今回最も楽しみにしている大崎下島へ移動する。
江戸時代の風情の残る大崎下島へ
とびしま海道で最も見所のあるエリアが、こちら大崎下島の御手洗(みたらい)。江戸時代に風待ちや潮待ち(航行に適した風や潮を待つこと)の港町として栄え、重要伝統的建造物群保存地区として国から選定されている。雨上がりの町をゆっくり散策することができた。

大小の商家、茶屋、船宿、住宅、神社、寺院などが混在し、集落中心路、集落連絡路、集落生活路(小路)等が網の目のように巡っている。家屋の表に掛けられている生け花は旅人をもてなす思いが込められた昔からの風習だ。写真は、御手洗地区のメインストリート「常盤町通り」。
御手洗には江戸・明治・大正・昭和初期といろいろな年代の歴史的建造物 が混在しているので、時間が許せばゆっくり歩いて散策するのにもいい。
現存する最古の時計店と言われる新光時計店。もともとの米問屋から1858年頃に時計の取り扱いを始め、現在の建物は、1919年(大正8年)頃に建て替えられたもの。正面右手の部屋は時計の修理を行う作業スペースで、当時は電気の供給が安定していなかったことや、自然光での作業が適していることから、南側の明るい場所に作業スペースを設けている。
常盤町通り中央の潮待ち館にはお土産販売コーナー、喫茶休憩所があり、散策案内、観光ガイドを受け付けている。採れたてみかんをその場で絞って作る「ぜいたくみかんラッシー」は特におすすめ。島ではすれ違う人が皆挨拶をし、温かい気持ちになれる。
自転車の記事に相応しいネタがあると教えてもらい、御手洗天満宮(天満神社)を訪れた。
ここ御手洗地区は、自転車による世界一周無銭旅行を実行した明治のバンカラ快人中村春吉が生まれ、晩年を過ごした土地として知られている。その冒険家 中村春吉を記念する石碑が新旧2つ並んでいる。

<中村春吉碑 日本初の「自転車による世界一周冒険旅行者」 1902年から中国、東南アジア、インド、中近東、ヨーロッパ、アメリカを1年半で廻る> 当日は雨上がりで石碑が見辛かったが、中村春吉の勇ましい姿や今流行りのバイクパッキングの様子などは一見の価値あり。

菅原道真が太宰府へ左遷されたときに立ち寄り、手を洗ったという伝承のある井戸。江戸時代に記された伝承によれば、神功皇后が朝鮮出兵に赴く際に立ち寄り、この井戸で手を洗ったことから、この地を「御手洗」と呼ぶようになったとされる。井戸のすぐ横、本殿の下のには、願いを込めてくぐると願いが叶うと言われている可能門がある。
潮待ち館と同じ、常盤町通りにあるトムの写真館を訪れた。2010年に第6回「名取洋之助写真賞」を受賞した、東京生まれ英国育ちのドキュメンタリー写真家 宮川トム氏が2015年に東京から移住してきて開いている写真館だ。

トムの写真館では、瀬戸内海周辺や昔の御手洗の町並みなどのポストカードのほか、とびしま海道在住イラストレーターおりでちせさんのオリジナル雑貨を販売している。
Ternで走っていると、みかん畑を多く見かけた。まだ黄色い実は少なかったが、収穫の最盛期には島の斜面がみかん色に染まるのではないだろうか。心洗われる景色を見ながらのサイクリングが心地いい。
少し小腹が減った頃、小長港ターミナル2Fにあるネロリの島 Cafeに到着。瀬戸内の海と自然が窓一面に広がり、その美しさに息を飲んだ。冬の晴れた日にぼーっとするのも気持ちよさそう。

京都の誠光社がネロリの島 Cafeのためにセレクトした書籍が並ぶ。随筆・ビジュアル本を中心に、他ではなかなか見ることのできない洋書や古書も。
日本の原風景を感じる
XC90で移動しながら、所々でVerge X11を下ろしてサイクリングを楽しんだ。この10月は秋の長雨に悩まされたが、他の時期に訪れても四季それぞれの魅力に触れることができるだろう。

とびしま海道はしまなみ海道ほどいい意味で整備されておらず、しまなみ海道を味わい尽くしたサイクリストにぜひおすすめしたいルートだ。島を繋ぐ橋への導入路もほとんどが車道で、その勾配も自転車を対象にはしていないが、島の自然や町並み、海の向こうに大小点在する島々など、日本を感じられる風景を堪能できるサイクリングコースと言える。アクセスや斜路の状況から万人に走破を勧めることは難しいが、今回のようにクルマを活用したシックスホイールのスタイルであれば有利だ。
雲の合間から太陽の陽が差し、神秘的な景色が広がった。訪れるたびにドラマティックな出会いがあるのが、旅の楽しさだ。クルマとフォールディングの組み合わせがあれば、どこへでも行ける。いつでも風を感じることができる。とびしま海道は、日常生活に疲れたらリフレッシュしに、またリピートしたいと思わせる土地だ。
瀬戸内の美しさを伝えられるような、青い空や青い海のある絶好のサイクリング日和とは言えない天候だったが、海や島のさまざまな色や質感を感じられることができた。
島の余韻に酔いしれる
島巡りの心地いい疲れとともに、ONOMICHI U2に戻った。U2は洗練されたしつらえとホスピタリティで、いつ訪れてもサイクリストを優しく包み込んでくれる。

身体を動かすスポーツ、サイクリングの愛好者をサポートしてくれるU2は、そのたたずまいは極めて上品に、静けさに満ちており、日本初のサイクリスト向け複合施設としてその部屋づくりから食事まで、トータルで疲れた身体をしっかり癒してくれる。バイクの保管サービスだけではないホスピタリティの高さ、もてなしが、国内外の感度の高い人々に知れ渡る所以だ。
部屋のバスタブに張った湯に浸かってリラックスし、The RESTAURANTで夕食をいただく。地元の旬の素材を味わうのも、毎回U2を利用する楽しみになっている。

左:「庄原“農吉”のモッツァレッラチーズとトマトのサラダ」広島県北部で作られるミルキーなモッツァレラチーズと、はじけるトマトの組み合わせが楽しい。 右:「鮮魚のカルパッチョ」瀬戸内海の新鮮な魚を使ったカルパッチョ。この日の魚はプリプリとした歯ごたえの「カンパチ」。

左:「地蛸のラグースパゲティ」こちらも瀬戸内海の「地蛸」を柔らかく煮込んだラグースパゲティ。蛸の風味がパスタにしっかりと絡む。 右:メインディッシュには愛媛で水揚げされた真鯛「鯛一郎」グリルをチョイス。
リフレッシュした朝
尾道水道の朝は晴れた。サイクリングの翌日は尾道市街の観光名所を散策することも考えていたが、尾道から大阪への帰路の途中に位置する鞆の浦(とものうら)方面へ、シックスホイールの機動力を生かして立ち寄ることにした。
U2での朝食は、ベーカリーで焼き上げられたパン、地元の野菜を中心に揃えたサラダなどをブッフェでしっかりと。地元の新鮮な野菜や果物をふんだんに使った身体を整えるメニューは、健康を気遣う方にも、しっかり食べたい方にもオススメだ。
ハムやソーセージとあわせて、調理方法や焼き加減を指定できる卵料理はオープンキッチンで作られて運ばれてくる。ヘルシーな朝食はサイクリストにも好評だ。
癒しの港町 鞆の浦
広島県福山市、沼隈半島の先端に位置する鞆の浦は「潮待ちの港」として江戸時代に栄えた町で、常夜燈や寺社・町家が大切に保存されている。坂本龍馬が属していた海援隊が借用していた「いろは丸」を鞆の浦沖で沈没させられたいろは丸事件でも知られているほか、仙酔島(無人島)が目と鼻の先に見えるなど、風光明媚な場所として知られている。
点から点へ、自由に移動できるのがクルマの良いところだ。大きめサイズのXC90はその運転のしやすさからすぐに身体に馴染み、鞆の狭い裏道もスムーズに走ることができた。何より、扱いやすいナビゲーションや危険回避のアシストが運転をサポートしてくれるので、移動中の疲れを感じることがない。コックピットに身を委ねる、そんな居心地の良さがこのクルマにはある。
クルマを降りてまず立ち寄ったのが、こちら「鞆 肥後屋」。瀬戸内海で獲れた天然の真鯛を地元 府中味噌の赤味噌、白味噌、山椒や生姜と一緒にことこと煮込んで作られる鯛味噌や、生海苔佃煮、鯛味噌巻き寿司などを、「座売り」の接客スタイルで購入することができる店だ。

「鞆 肥後屋」の建物は、160〜170年ほど前に建てられた江戸時代の商家。かつては保命酒という酒を販売していた旧家を改装し、食材にこだわって作った鯛味噌を、上質感の漂う箱に収めて販売している。酒の肴や、ご飯のお供、目上の方への贈答にも良い。

老舗のような店構えで提供するのは、鞆の浦の伝統的な鯛味噌とは味付けも製法も異なる、瀬戸内海で獲れた真鯛を府中味噌で煮込んだ新しい鯛味噌。さらに鞆の浦で作られる酒粕などを加えることで、この土地ならではの良さを凝縮し、今の時代に沿った鞆の浦の新しい手みやげとして仕上げられた。
鞆の浦の港町である鞆には古い町並みが残り、都市景観100選、美しい日本の歴史的風土100選などにも選ばれている。徒歩でも散策できるが、行ったり来たりには自転車も便利だ。

座敷からの海の眺めは素晴らしい、海岸山千手院福禅寺の本堂に隣接する対潮楼。鞆を代表する観光スポットの一つ。江戸時代を通じて朝鮮通信使のための迎賓館として使用され、日本の漢学者や書家らとの交流の場であったほか、いろは丸沈没事件の際、海援隊と紀州藩の交渉の場にもなった。
鞆の浦のシンボル的存在なのが、こちらの常夜灯。周辺の町並みとともに映画やドラマ、CMに登場している有名なスポット。

江戸期の港湾施設である常夜燈、雁木、波止場、焚場跡、船番所跡がほぼ完全な形で現存しているのは、全国でも鞆港だけだ。この常夜燈は、海中の亀腹型石積まで含めると10mを越す大きさで、港の常夜燈としては日本一。瀬戸内の誇れる景観。
昼食は「御舟宿 いろは」へ。いろは丸事件の賠償交渉が万国公法(当時の国際法)にのっとり行われた場所で、地元のNPO法人がまちづくり活動の一環として宿泊施設・食事処として再生させた。宮崎駿監督がデザインに携わったことも話題となっている。

ランチには、地産地消の食材にこだわった「鞆の浦 鯛づくし御膳」をいただいた。瀬戸内の鯛を酒や昆布などに三日以上漬け込みしっかり熟成させた同店自慢の一品「鯛いろは漬け」に、鯛のかぶと煮、季節の小鉢を加えた鞆の浦を味わい尽くす贅沢な御膳だ。
今回は3列目のシートを畳んで利用した。ちょっとしたことだが、エアサスで車高が変わったり、両手が塞がった状態でもリアバンパーの下で足を動かせばテールゲートが自動的に開閉してくれるハンズフリー機能搭載の電動開閉式テールゲートなど、細かい気配りもありがたい。
全てが充実した旅となった。快適なクルージングが癖になり、大阪に近づくにつれ名残惜しい気分になった。
クルマに、バイクに、島々に…懐の深いものに触れることで、経験したことのない充実感を味わう旅となった。スペックには表れないそのものの良さは、実際に体感しないと分からないだろう。クルマもバイクも旅も(もちろん今回の宿や食事、立ち寄ったスポットもだが)、そういうものはSNSで人に見せるためのものではなく自分のため、自己満足ができればそれでいい。ブランドだとか高級だとかウンチク、他者の評価などは関係なく、かけがえのないものに触れて、自分が満たされれば結局はそれで良いのだ。
今回巡ったルート
「ボルボ・カー 堺」のある大阪府堺市からドライブが楽しめる程よい距離、旅先で自転車を活用できるエリア、走ること自体が目的のサイクリングではなく、その土地の歴史や町並みに触れられる地域の一つとして、今回はとびしま海道(と鞆の浦)を選びました。点から点への移動に便利な、クルマとフォールディングバイクによるシックスホイールの手軽さをぜひ皆さんも体感してみてください。