ビワイチ(= 琵琶湖一周サイクリング)がジワジワと流行ってきていますが、滋賀をそれだけで満足していては勿体無い!文化庁から「琵琶湖とその水辺景観-祈りと暮らしの水遺産」が日本遺産として認定されているとおり、琵琶湖周辺には日本人の高度な「水の文化」の歴史が集積されていて、見どころがたくさん。ひとつひとつの街の文化に、ゆっくり触れてみては如何でしょうか。
今回は滋賀県の湖東、東近江地域に位置する近江八幡を、ミスキャンパス同志社2017ファイナリストの久保美月さんにミニベロで巡っていただきながらご紹介します。
*この記事で紹介している情報は、2018年4月時点の取材に基づいています。
高速巡航に向いたロードバイクに比べてストップ&ゴーが得意なミニベロは、街の散策と相性が良いのでその土地土地の文化や風景に触れたい方にピッタリの自転車だ。近江八幡はJR京都駅から普通列車で30分ほど、大阪駅から新快速で60分ほどと、思い立って気軽に行ける距離。車での移動だと渋滞の心配もあり実際に2〜3倍の時間を要するが、今回はフォールディングバイクで輪行(りんこう)したので一眠りしている間に現地に着いた。

輪行(りんこう)とは、サイクリストが自分の自転車を公共交通機関(鉄道、船、飛行機など)を利用して運ぶこと。誰でも簡単に折りたためるフォールディングバイク(折りたたみ自転車)なら、気軽に輪行してどこへでも行ける。今回は近江八幡駅の隣駅、JR安土駅で下車し、サイクリングに出発した。自転車は、7段変速を装備し16インチサイズでコンパクトに折りたためるDAHONのCurve D7を使用した。手元にあった20インチ用輪行袋を使用したので写真では大きく見えるが、DAHONでは16インチ用を含め4サイズの輪行袋をオプションでラインナップしている。
安土駅からまずは自転車道「びわ湖よし笛ロード」をサイクリング。前日の強風で花びらが散ってしまい葉桜の写真になってしまったが、この「びわ湖よし笛ロード」以外にも近江八幡ではいたるところに美しい桜並木があるので、桜の季節を狙って訪れるのも良い。

「びわ湖よし笛ロード」は、近江八幡市鷹飼町を起点に東近江市山路町附近に至る26.6kmの一般県道の愛称で、近畿地方最大級といわれるヨシ(アシ)群落から命名されている。全線にわたって赤茶色のカラー舗装が施されており、景観、施設、路面状況などの面で、初心者にもやさしくファミリー向けのコースと言える。
「さまざまの事思ひ出すさくらかな」
多くの日本人が桜を愛でるが、ひとつの花が咲くのを国中で待ち焦がれることは世界的にあまり例がない。近江八幡の観光名物「水郷めぐり」に訪れた人たちが、舟の上から春の景色を楽しんでいる。桜と菜の花と水郷めぐりの舟のセットを楽しめるこのスポットは市街地から少し離れているため、自転車だからこそ楽しめる風景となっている。

ラムサール条約にも登録された湿地「西の湖」を中心とした河川、湖沼、湿地エリアは、「安土八幡の水郷」として広く親しまれ、水郷めぐりはあまりにも有名。西の湖一帯はヨシ原や田畑の間を水路が走り、かつては交通手段に使われた。現在ものどかな風景が広がり、水郷めぐりの舟が行き交う。
ひとしきりサイクリングを楽しみ、八幡堀のある旧市街地へ。かつて城下町として賑わった近江八幡では、日本の伝統的家屋と1,900年代初頭の西洋風の建築物が立ち並ぶ、風情ある街並みの中での散策が楽しめる。
ここ、日牟禮八幡宮(ひむれはちまんぐう)は古くから近江商人の信仰を集め、周辺住民の心のよりどころとして、また近江八幡から全国へ旅立った近江商人たちも、出立前や帰郷の折には必ずお詣りするなど、いつも人々が行き交う賑わいの場所だった。現在ではすぐ横の八幡堀と併せ、観光客にも人気のスポットになっている。

約4万4000平米という広大な神域には木々が生い茂り、その下を通り抜けて楼門をくぐると、拝殿・神殿が続く。晴れた日は神社の横の乗り場からロープウェイを利用して、八幡山頂から琵琶湖を望む風景を楽しむのも良い。
八幡堀は、安土桃山時代に豊臣秀次が八幡山城を築城した際、市街地と琵琶湖を連結するために造られた人工の水路だ。城下町の都市計画として整備され、城を防御する軍事的な役割と、当時の物流の要であった琵琶湖の水運を利用する商業的役割を兼ね備えた。この八幡堀により船や人の往来が増えたことで商業が発達し、八幡山城廃城後の江戸時代には近江商人(八幡商人)が町の発展に大きな役割を果たした。現在では近江八幡のシンボルとして、四季をとおして観光客で賑わう。

近江八幡の歴史文化を生み出し、今は観光名所として位置づけられるこの八幡堀も、市民が八幡堀との関わりや関心を失った昭和40年代後半には、埋め立ての予算が国に計上されていた。しかし、近江八幡青年会議所の呼びかけをきっかけとした清掃活動から市民運動が高まり、近江八幡のまちづくりのシンボル、また観光地として今の風情ある風景を取り戻した。当日はほとんど散っていたが、もう少し早ければ素晴らしい桜の風景が広がっている。

この八幡堀が琵琶湖水運の要衝として設けられたことから町は大阪と江戸を結ぶ重要な交易地として発展し、堀沿いには裕福な豪商たちの白壁の土蔵や旧家が建ち並ぶ。八幡堀を含む旧市街地約13.1ヘクタールは、「近江八幡市八幡」の名称で重要伝統的建造物群保存地区として選定されている。
サイクリングから参拝、そして八幡堀を散策し一休み。ランチには、風情豊かな町並みの中、八幡堀沿いにのれんを掲げて60余年となる「京料理 宮前」にお邪魔した。夜は会席料理のみだが昼にランチメニューを選べば、敷居が高く感じる同店を比較的利用しやすいだろう。

運ばれてきた料理(大きな籠!)を前に、胸が高鳴る。様々な器を舞台に四季が織りなす料理を堪能できるのも、同店の特徴だ。部屋は、庭園と八幡山の風情豊かなロケーションを堪能できる今回利用したテーブル席のほか、花鳥風月を感じさせる庭を眺めながら食事をいただける大小の座敷を備える。

一つ一つの食材の持ち味を京料理の技法で最大限まで引き出し、心躍りそして安らぐ味創りをされている同店。佃煮は琵琶湖の恵みを代々女将が炊かれているそう。年末の百貨店限定おせちをはじめ、節分の恵方巻、雛まつり期間の「雛ちらし」、夏季期間の夜は琵琶湖産子鮎塩焼きなど、期間限定のメニューにも趣向を凝らす。詳しくは美しい写真が掲載された公式サイトで。
近代建築好きなら避けては通れないヴォーリズ建築。ここ近江八幡は数々のヴォーリズ建築が建てられた地域としても有名だ。昼食後は近江商人屋敷が多く残る旧市街地を自転車で散策しながらヴォーリズ建築を探訪した。まずこちらは、池田町洋風住宅街(ヴォーリズ建築群)。ここ池田町は若き日のヴォーリズが自宅を構えた場所(旧居は現存せず)で、ヴォーリズ邸に隣接して建てられた彼の手になる洋風住宅群を現在も目にすることができる。
明治38年に八幡商業高等学校の英語教師として来日したウィリアム・メレル・ヴォーリズは、太平洋戦争当時、開戦の気配が濃くなり多くの外国人が日本を離れる中でも、自らの意志で日本への帰化を選択、一柳米来留(ひとつやなぎめれる)と改名し、昭和39年に83歳の生涯を閉じるまで近江八幡市に留まり、キリスト教の伝道とその主義に基づく社会教育、出版、医療、学校教育などの社会貢献活動を続けた。ヴォーリズの興した最初の事業である建築事務所の作品は、キリスト教会から学校、一般の商業・オフィスビル、ホテルにまで至り、近江八幡に残る数々の建築物のほか、関西学院大学、旧大丸百貨店心斎橋店、旧大同生命ビル、山の上ホテルなど広く知られるものも多数ある。

ウォータハウス記念館:初期の近江ミッションに加わり、宣教活動に取り組んだ伝道家の一人のウォータハウスが、妻とともに暮らした住居。この辺り(池田町洋風住宅街)にはヴォーリズが大正期に手がけた初期の作品で、アメリカ開拓時代を象徴するコロニアルスタイルと呼ばれる建築が多数残る。
近江商人屋敷が建ち並ぶ新町通りには、近江八幡市立資料館のひとつ「郷土資料館」が。東に移動していくとアンドリュース記念館、旧八幡郵便局舎、ヴォーリズ記念館、ハイド記念館と立て続けにヴォーリズ建築に触れられる。

ヴォーリズ記念館(旧ヴォーリズ住宅):ヴォーリズによって幼稚園の教師寄宿舎として設計され、1931年の竣工時からヴォーリズの後半生の自邸として使用された建物をヴォーリズの記念館として活用したもの。外観は質素だが下見板張り、両開きの窓、暖炉の煙突などに洋風を感じさせる。内部は独立した洋室の間取りや数多く設けられた収納空間、さらに夫人のために日本の生活様式に合わせて和室を取り入れるなど生活面での配慮と機能性を重視した設計姿勢が表れている。滋賀県指定有形文化財。正式名称は、一柳記念館。館内にはヴォーリズが来日時に持参したピアノなどの遺品や資料が展示されている。

ヴォーリズ学園ハイド記念館:ヴォーリズの妻が園長を務めた幼稚園の園舎として昭和6年(1931年)に建設されたヴォーリズ建築。建設費を寄付したメンソレータム創業者のハイド夫人を記念して、ハイド記念館と呼ばれている。クリーム色のスタッコ壁に白い窓枠、赤い瓦が可愛らしく、ヴォーリズの特徴がよく出ている。2015年に近江兄弟社学園からヴォーリズ学園に法人名が変更された。
写真以外にも、周辺にはヴォーリズ建築事務所による建築物がいくつか現存している。病院のため見学はできないが、登録有形文化財に指定されているヴォーリズ記念病院旧日本館は建物の外観や病室の採光、通風など、人にやさしい設計を重視するヴォーリズの作風がよく現れており、遠くから眺めるだけでも価値がある。また、安土駅のすぐ近くには同じくヴォーリズ建築の旧伊庭家住宅もある。
夕方になったので、カフェで休憩して今回のサイクリングはおしまいに。桜の見頃を逃してしまい、天気も曇りがちだったが、気持ちよく身体を動かせた1日となった。

CLUB HARIE(クラブハリエ)のバームクーヘンでも有名な「たねやグループ」のショップ・カフェ・農園などで構成された複合施設「ラ コリーナ近江八幡」。ユニークな形をした建物が目印。
<今回巡ったスポット>
今回の記事では、鉄道を利用した輪行で近江八幡に入り、自転車道「びわ湖よし笛ロード」をサイクリング。昼食後は近江商人屋敷が多く残る旧市街地を自転車で散策しながらヴォーリズ建築を探訪した。京阪神からは休日の朝に思い立って行ける距離で、遠方からでも新幹線で京都まで来れば30分の距離。サイクリングに適したルートは琵琶湖沿いにも広がり、各種案内版や休憩所、資料館、ボランティアによるガイドなど、観光にもサイクリングにも優しい環境が整備されており、初めて訪れても楽しむ事ができる町だ。皆さんもフォールディングバイクで輪行して現地入りし、自転車で移動しながら近江八幡の自然や文化に触れてみては如何だろう。